滑行

真っ直ぐにハンドルを握り、アクセルペダルを一定の深さに保つ。
タイヤが地面を駆ける。低く、深い駆動音が身体を伝って聞こえる。
何も考えなくていい。目的地さえも。

こうして車をあてもなく回す時間が好きだ。何かに追われるわけでもなく、何かを目指すわけでもない。
ただその瞬間を流れる雰囲気に身を浸していれば良い。

ここ数年で何もかもが変わった。
私は色んなものを破壊しながら、時に人を傷つけ、自分も傷つきながら、生活していた。
「前進すること。」それだけが私に与えられた唯一絶対の命題だった。
あの頃はただ、周りと自分を比べることに躊躇がなかったし、何か目的を持っていない
いてもたってもいられなかった。

とにかく、昔の私は、気象予報的にいえば、「強い勢力を伴った台風」のような暴力的な推進力を持っていたはずだが、いつの頃から完全に毒気を抜かれ、温帯低気圧どころかそよ風のような、ハングリーさのかけらもない人間へと変わり果てていた。
当時の自分が今の私を見たら、なんと情けないと嘆き落胆することだろう。自分でも、今の私があまり好ましい状況にはないと気づき始めている。どこで間違えたのか分からないが、とにかくあの頃の情熱みたいなものを取り戻さないといけないと、心のどこかで警鐘が鳴っている。

それでも私は、ハンドルを握ることをやめられない。あてどなく、緩やかなドライブに浸ることを諦められない。
目的を決めず走り出し、惰性に身を任せることの心地よさを知ってしまっている。あの頃のように、自分や誰かを傷つけてまで、目的のために邁進することよりも、誰も(私も)傷つけず、ただ流れゆく景色を横目で見ながら、なんとなくふらふらすることを選んでいる。

だめだ、それではだめなんだ。そう思いながら、私は今日も車に乗り込む。
ある晴れた日の、気持ちの良い雨上がり。


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